Apache Spark: PythonとScalaのどっちを使うべきか比較する
データサイエンスプロジェクトで Spark を使う場合、必ず議論に上がるのがPythonとScalaのどちらのプログラミング言語を採用すべきかということです。
Sparkは元来Scalaで書かれているため、Scalaで処理コードを書いていくのが直感的にも自然なことです。しかし、データサイエンティストの多くはPythonに親しみがあるため、Sparkから取得したデータに対してPythonで書いた機械学習モデルや処理コードをそのまま適用したいということがあります。
そこで、近年台頭してきたのがPySparkです。PySparkとは、PythonでApache Sparkを実行するためのAPIです。PySparkの発展により、PythonによるSparkの扱いやすさは劇的に改善してきており、ScalaとPythonのどちらを使うべきかという論争は大きな盛り上がりをみせています。
本記事では、PythonとScalaのどちらでSparkを扱うべきかということについて、それぞれのメリットとデメリットを紹介しながら比較していきます。
Apache Spark とは
どのプログラミング言語を扱うべきかという比較に入る前に、Apache Sparkの概要について確認していきましょう。
Apache Sparkとは大量のデータに対して高速に分散処理を行うOSSフレームワークです。APIとしてはPython, Java, Scala, R などのプログラミング言語が用意されています。大規模データを扱う分散アプリケーションを開発する際にはSparkの利用が必ず検討されるといってもよいでしょう。
類似の分散処理フレームワークとしてHadoopがありますが、HadoopはJavaで書かれているのに対して、SparkはScalaで書かれています。また、HadoopとSparkの大きな違いとして、HadoopではMapReduceにおける入出力のたびにストレージにアクセスする必要があったのに対して、Sparkではデータをメモリに保存することで高速化を図っています。これはインメモリ処理と呼ばれ、機械学習などのように入出力処理が頻繁に発生するようなアプリケーションでは実行性能が100倍程度改善することもあります。
Apache SparkではSpark MLという機械学習ライブラリが備わっているのも特徴です。これによって、ユーザは複雑な分散処理を考えることなく、高速で動作する機械学習手法を実装することが可能です。
SparkML以外にも、Spark上で使える機械学習パッケージがいくつかあるので詳しく知りたい方は別記事を参照してみてください。
hktech.hatenablog.com
Python vs Scala
Sparkを扱う際に、PythonとScalaのどちらを選択すればよいのでしょうか。それぞれのメリットとデメリットを比較していきます。
実行速度
まずは、PythonとScalaを実行速度の観点で比較します。
平均的に、ScalaはPythonより約10倍の速さで実行することが可能です。Scalaは実行時にJava Virtual Machine (JVM) を使用するのに対して、Pythonは動的型変換を伴うインタプリタ言語であるため、その実行速度の差は歴然です。さらにSparkのライブラリはすべてScalaで書かれているため、Pythonでこれらを使用しようとすれば、Scalaそのものでライブラリを扱うよりは実行速度が遅くなることは明らかです。
したがって、実行速度の観点ではScalaが圧倒的に優位です。
扱いやすさ
次にPythonとScalaを扱いやすさの観点で比較していきます。
まずは、実装のしやすさという点では、Pythonに圧倒的な軍配が上がります。ご存知の通り、Pythonは学習コストが低いプログラミング言語のひとつとして知られており、データを扱う多くのエンジニアやデータサイエンティストはPythonに慣れているということがあります。一方で、ScalaをマスターするためにはJavaの基本的な理解が必要であるため、情報系出身者ではない多くのデータサイエンティストがここで脱落します。さらに厄介なことに、Javaに習熟しているものでもScalaの特殊な構文に慣れるには時間がかかるといわれています。このようなことから、チーム全体の実装スピードや運用コストという点でもPythonのほうが優れているといえるでしょう。
Scalaの実装が簡単ではないということを説明しましたが、Scalaを扱えることができればSparkのフレームワークをより簡単に活用することができます。SparkのライブラリはScalaのAPIコレクションを活用しているため、これを理解しておけば内部的な動作を把握することができるほか、用途に応じた修正をすることが可能です。また、動的型変換を行うPythonと比較すると、Scalaは静的に型が定義されるため、コンパイル時にエラーを発見することができるという点で安全性が高いです。
結論
実行速度では、ScalaのほうがPythonより早く、扱いやすさという点では、Pythonのほうがやや優勢であるということがわかりました。
結局、PythonとScalaのどちらを使えばよいのでしょうか?
例えば、大規模データを処理してレポーティングをしたいという場合にはPythonが有効です。商用システムでない場合、実行速度は大きな問題ではないため、すばやく実装でき、可視化ライブラリなどが充実しているPythonを選ぶのがおすすめです。特に、機械学習系の案件であれば、データサイエンティストの多くはPythonに慣れているはずなので、こちらを使うのが無難でしょう。
商用のシステムでSparkを活用したい場合、PythonとScalaのどちらを選ぶかは会社の形態やリソース状況によって変わると思います。
事業会社で、大規模データを扱うシステムまたはサービスを長期的に開発する場合はScalaがよいでしょう。学習コストがかかってしまうものの、Sparkを本質的に理解するためにはScalaの理解は欠かせないほか、パフォーマンス観点や最新のSparkライブラリにアクセスしやすさからもScalaを選択することが賢明です。
一方で、コンサルや短納期での実装が求められるような会社においてはPythonを選択するのがよいでしょう。特に、受注をするような場合は保守がしやすく、実装できる人材が多いプログラミング言語を選択することが一般的であり、Sparkにおいてもこれは当てまります。